笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#165

 浅田家!   みをつくし料理帖  82年生まれ、キム・ジヨン

 おかげさまで「がん」から復活し普通に外で仕事ができるようになりました。 CS放送の映画紹介番組「男おばさん」にも復帰。映画を見る本数が戻りつつ あります。本当にご心配おかけしました。これからもヨロシクお願いします。

  浅田家!

「一生にあと一枚しか、写真を撮れないとした ら?」彼が選んだのは「家族」だった。

 なんて優しく、なんて素敵な話なのだろう。へんてこな「コスプレ家族写真」を撮り続けて権威ある写真賞を受賞したカメラマン 浅田政志氏の半生(実話)を、「湯を沸かす ほどの熱い愛」で映画賞を総なめにした中野量太監督が映画化。

 前半は「コスプレ家族写 真」撮影の舞台裏を描いて実に面白い。ところが、東日本大震災の津波で泥をかぶった「写真」を被災者に返却するボランティアを始める後半になると涙なしには見られない。コメディーからシリアスへの展開が絶妙なのだ。家族といったものに注がれる温かなまなざしは、中野監督の真骨頂でもある。

 浅田家の家族を演じた平田満、風吹ジュン、妻夫木聡の見事なサポートを得て主演の ニノは二宮和也史上最高の心揺さぶる演技を 見せた。必見。


2020年制作 配給:東宝
監督:中野量太
キャスト:二宮和也、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満  他

  みをつくし料理帖

角川春樹監督作史上、最も愛らしく、 優しく、涙なしでは見られない人情噺。

 角川映画の祖といえる角川春樹氏、最後の監督作だと言うので、こんな感じかなと予想していたら遥かに超えて感動してしまった。

  江戸の町を舞台に料理人と花魁になった幼なじみの2人のヒロイン(松本穂香・奈緒)。 生き別れて交わることのなかった2人の人生が思いがけないことで交差する友情のドラマ だ。それぞれの世界で奮闘する2人にとても 強い感情移入をしてしまうとともに、お互いを思いやる気持ちがあまりにも純粋で涙なしには見られないシーンがいくつもあった。また花魁を支える中村獅童の渋く抑えた演技が 非常に決まっていて助演賞候補だろう。

 角川 氏の監督最終作品なので角川映画全盛時代の俳優たちがたくさん集まってきていて、10代以上の観客はその顔ぶれを見ているだけでも最高に楽しい気分になれる一作。最後なんて言わないで。


2020年制作 配給:東映
監督:角川春樹
キャスト:松本穂香、奈緒、若村麻由美、浅野温子、窪塚洋介、中村獅童、薬師丸ひろ子、石坂浩二 他

  82年生まれ、キム・ジヨン

共感と絶望から希望が生まれた。 大丈夫、あなたは一人じゃない。

 大変驚いた。「育児うつ」と「憑依」をキー ワードにした韓国映画が韓国初登場1位と聞 いて、あの国お得意のとんでもない展開の韓国ホラーを想像していたが、さにあらず。 働 く女性と働けない女性たちの困難をこれでも かというくらいシリアスに深く描いた人間ド ラマであった。

 主人公の主婦(チョン・ユミ) は出産後の育児ストレスから別人格が憑依し てしまう精神疾患に陥ってしまう。対応に苦 慮する夫(コン・ユ)。妻は働くことで自分を取り戻そうとするが夫の実家が猛反発をみせ、親族を巻き込んだ騒動へと発展してしまう。

 韓国のママたちの苦悩は日本のママたちと全く一緒。ステレオタイプの男たちの反応を見ると日本以上の差別と闘っているようだ。男と女で感想が大いに異なる作品だろう。日本でも女性たちの高い支持を得られそうだ。


2019年制作 配給:クロックワークス
監督:キム・ドヨン
キャスト:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン 他

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai