笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#164

 糸　  喜劇 愛妻物語　 スペシャルズ！～政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話～

　コロナ禍の中の夏休み興行はどうなっているでしょうか？ヒット作が生まれているといいのですが。もう一つの問題は、私が劇場に足を運べる体になっているかです（笑）。やっぱり、大きなスクリーンで見たいのです。「映画」なんですからね。

  糸

めぐり逢う、２つの物語。人は奇跡のような確率で、誰かと出逢っている。

　切ないなあ。人生とは誰と結ばれて誰と別れていくのか、本当にわからない。そのことをしみじみと感じる作品だった。

　中島みゆきの名曲「糸」にインスパイアされたオリジナルラブストーリー。幼なじみで初恋の相手である漣（菅田将暉）と葵（小松菜奈）の平成時代30年間にわたる、糸の歌詞通りの「２つの物語」が描かれる。時に交差し時に離れゆく２人の物語は恋愛映画に関してツボを心得ている瀬々敬久監督の手腕によって、最後まで見る者の気持ちを手繰り寄せていく。

　菅田と小松の「溺れるナイフ」が大好きなのだが、やはりこの２人が共演するとハマると思った。令和時代の百恵友和になったとしたら、それこそ「糸」である。

2020年制作　配給：東宝
監督：瀬々敬久
キャスト：菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、倍賞美津子 　他

  喜劇 愛妻物語

笑えて、呆れて、呆れて、泣ける。愛憎渦巻く夫婦道。

　足立紳監督が自らの家庭内事情を映画化した、激烈夫婦愛バトルストーリー。足立監督らしき役を濱田岳、奥さん役を水川あさみが演じるのだが、この奥さんがとんでもないドＳで、売れない脚本家の夫に対して罵詈雑言の嵐（笑）。タイトルに「喜劇」とついていなければ、あまりの悲惨さに笑えなくなってしまうほど水川の芝居が凄まじい。

　しかし見進めていくうちに夫婦というものはこういうものではないかと思えるような描写がそこここにあり、昨年の東京国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞している。自分の奥さんのことをこんなふうに描いて果たして大丈夫なのかと別の意味でハラハラするが、舞台挨拶に夫婦で登壇して笑っているのだから、やっぱりこの夫婦の形はアリなのだ。

2019年制作　配給：バンダイナムコアーツ、キューテック
監督：足立紳
キャスト：濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子 　他

  スペシャルズ！_{～政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話～}

政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話

　心に染み渡る温かな気持ちにさせてくれる作品だった。

　体の不自由な大富豪と貧しい介護人との交流を描いた感動作「最強のふたり」。その監督が手がけたのは、献身的な無認可の自閉症ケア施設と、無認可ゆえ閉鎖させようとする役所との戦いの実話。

　実際に自閉症の方を主要キャストにすえ、自閉症の人たちと向き合う施設のスタッフの苦労と感動をストレートに描くことに成功している。主人公の施設長にはフランスの役所広司ともいえる名優ヴァンサン・カッセル。どこまでも温かく懐深く全てを受け入れる姿が見る者の心を打つ。自閉症は天使であるとせず、良いも悪いも全てを映し出すという姿勢が感動を増し、フランスで大ヒットしたというのは納得。

2019年制作　配給：ギャガ
監督：エリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ
キャスト：バンサン・カッセル、レダ・カティブ、エレーヌ・バンサン　他