笠井アナの「僕のえいがの百三十科」#157

 ラストレター   太陽の家  風の電話

 読者の皆さん、ご心配をおかけしています。現在「悪性リンパ腫」という「血液のがん」と闘っています。闘病中でも連載が続けられる限り続けていこうと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。頑張ります!

  ラストレター

きみにまだずっと恋しているって言ったら信じますか?

 手紙を題材に岩井俊二が作品を撮るとこんなにもいい。

 姉の葬儀のあと見つかった同窓会のハガキ。代わりに出席した妹(松たかこ)は、そこで初恋の人(福山雅治)と再会した。しかし、彼は、妹の事を”死んだ姉”と勘違いし、奇妙な文通が始まった…。亡くなった人に対して届くはずのない手紙。作為的な返事と混乱。若手人気女優の一人二役。そして感動。そう、全く違う物語だが、これは岩井監督の名作「Love Leter」(1995)の変奏曲なのだ。

 さらに、ミポリン&トヨエツ(これが怪演・快演!)も登場。「お元気ですか?」のフレーズ後に福山雅治が動く…だから。「Love Letter」をみてから行くと2倍楽しい。間違いない。広瀬すずはもちろんだが、同じく二役を演じた森七奈の初々しい芝居がとても良かった。


2020年制作 配給:東宝
監督:岩井俊二
キャスト:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、豊川悦司、福山雅治 他

  太陽の家

単純だけど実直な一人の男の「愛と優しさ」が不器用で臆病な少年の心を成長させていく

 こんな長渕剛が見たかった!

 20年ぶり!の主演映画、お人よしで女に弱く曲がったことが嫌いで喧嘩っ早い大工の棟梁。これがハマった!役を完全に自分のものにして、いや、自分自身をそのまま役に乗り移らせて、縦横無尽に暴れ回る。観ていて大変気持ちがいいのだ。

 ひょんなことから出会った広末涼子の子供の面倒を見ることになった棟梁の人情・奮闘物語。すべてを飲みこんで棟梁に対峙する妻・飯島直子が良い味を出し、息子の瑛太に泣かされる。ある意味、昭和的王道をゆくホームドラマだが、圧倒都的な長渕剛パワーに心動かされるのだ。本人はモノづくりに大変なこだわりを持つアーティストだけに権野元監督、現場で相当苦労されと思うが(笑)、その苦労は確実に形になっている。


2020年制作 配給:REGENTS
監督:権野元
キャスト:長渕剛、飯島直子、山口まゆ、潤浩、上田晋也、瑛太、広末涼子 他

  風の電話

天国につながるただ一つの電話に今日もまた人々が訪れる、「もう一度、話したい」

  岩手県大槌町の海を見下ろす丘に「風の電話」と呼ばれる電話線のつながっていない電話ボックスが置かれている。死別した人と話ができる電話として有名になり、東日本大震災以降、来訪者は3万人を追えるという。この電話モチーフに諏訪敦彦監督が映画化。

 震災で家族を失ったハル(モトーラ世里奈が素晴らしい!)が彷徨いながら風の電話にたどり着くロードムービーだ。セリフの少ないモトーラ。諏訪監督はこれまで、俳優に設定だけを伝えて”生の芝居”をさせるなど、一貫して会話の質にこだわってきた。今回もほとんど台本はなかったという。

 圧巻はクライマックスでモトーラが風の電話から天国の家族に話しかける長回しだ。暗記ではない。ハルとして心の底から湧き出た言葉を、諏訪監督が大切にとらえたこの10分間は必見。感涙。


2020年制作 配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:諏訪敦彦
キャスト:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子 他

笠井信輔

フリーアナウンサー

1987年フジテレビアナウンス部入社後2019年10月よりフリーになる。
趣味の映画鑑賞は新作映画を年間130本以上スクリーンで観るほど。
舞台鑑賞は特にミュージカル、とりわけ宝塚歌劇団好き。

オフィシャル・ブログ
笠井TIMES『人生プラマイゼロがちょうどいい』

オフィシャル・インスタグラム
shinsuke.kasai