「筋肉」は健康長寿の鍵⁉

いきいきと年齢を重ねる②

 日本は屈指の長寿国ですが、残念ながら平均寿命と健康寿命の間には約10年の乖離があります。健康的な日常生活には支障なく体を動かせることが要であり、それを担うのは筋肉です。近年の研究により、筋肉量を維持している人は健康長寿の傾向にあるとわかってきており、筋肉の維持は誰にとっても極めて大切だということがいえます。

筋肉の再生と老化の影響

 通常、筋肉(骨格筋)の量や機能は加齢とともに低下します。この筋肉の衰弱は「サルコペニア」と呼ばれ、40歳以上の約. に、80歳を超えると半数以上の人に見られるといわれています。健康寿命を延ばすにはサルコペニアの予防と治療が重要で、そのためには筋肉の老化を2つの局面に区別して捉える必要があります。
 1つ目は加齢のみが原因で筋肉が衰弱していく一次性サルコペニアの局面、2つ目は一次性サルコペニアで転倒などが誘発され、被った筋傷害からの回復局面です。前者では筋肉の維持が重要であり、後者では筋肉の再生が重要となります。 筋肉(骨格筋)は筋線維が束をなした構造をしています。筋線維それ自体は分裂能を持たないため、傷害を負っても自ら再生できません。しかし、筋線維の周囲には幹細胞(筋衛星細胞)を備えており、筋線維が壊れると活発に増加、分化・融合して筋線維を再生します。ただ、やはり加齢とともにこの能力も低下します。
 私たち研究チームは、加齢に伴う筋再生能の低下は、筋衛星細胞数の減少と骨格筋内の環境の悪化によることを明らかにしました。一方で、重度の傷害を負わない限り、筋肉の維持に筋衛星細胞は必要なく、一次性サルコペニアへの関与は薄いと考えられます。これは幹細胞が子孫細胞を生み出し続けることで筋組織が維持されるわけではないからです。

健康長寿の実現を目指して

 では、何が一次性サルコペニアの発症に関与するのでしょうか? 最近の研究において、自立歩行可能な超高齢者と2年間車椅子生活で自立歩行不能な超高齢者、若齢健常者を対象に、生体内で発揮される筋力と生検により取り出した筋線維の張力を比較しました。その結果、生体内で発揮される筋力は確かに加齢で低下し、車椅子生活でさらに悪化していました。しかし驚くべきことに、筋線維の張力は老化や不活動に影響されていなかったのです。このことから、骨格筋組織を構成する筋線維以外の要素(神経支配や細胞外基質の構成など)がサルコペニアに関与していることが示唆されました。
 サルコペニアの予防、治療法は研究段階ですが、年齢を重ねるほど筋力の維持は大切です。いつまでも健康でいるため、ぜひ日常に筋力トレーニングを取り入れてみてください。

監修
上住 円

うえずみ・まどか

東京都健康長寿医療センター研究所

https://www.tmghig.jp/research/

2002年徳島大学大学院栄養学研究科修了。栄養学博士。国立精神・神経センターのポスドク、国立長寿医療研究センターの室長を経て、17年より東京都健康長寿医療センター。骨格筋の老化メカニズムの解明を目指し研究を行っている。