感染予防に重要なIgAの力!
私たちの健康には、細菌やウイルスから体を守ってくれる免疫機能が不可欠。そこでも大きな役割を果たしているのが唾液です。
唾液中の抗菌物質IgAとは
健康な成人では、1日に1000.1500. 分泌される唾液。その99%は水分ですが、残りの1%には100種類以上のさまざまな成分が含まれています。中でも私たちの健康に大きな役割を果たしているのが、免疫力を高めてくれる成分です。
免疫力はもともと人間に備わっている力で、細菌やウイルスなどから24時間体を守ってくれています。その最前線ともいえるのが外界に接する口で、常に異物の侵入や口内の汚れによる細菌の発生などの危険にさらされています。そんな大切な場所で免疫力を担っているのが、唾液中に含まれるIgA、ラクトフェリン、ペルオキシダーゼ、リゾチームなどの抗菌物質です。特に、免疫を担う成分の中でも重要な働きをしているのが、唾液中に最も多く含まれるIgA(免疫グロブリンA)です。IgAは一般に1日50.100㎎ ほど分泌され、異物の侵入を防ぐ「粘膜免疫」というバリア機能を中心的に担っています。槻木先生は、「IgAは口内の粘膜にたくさんあり、細菌やウイルスを発見次第その侵入を食い止めてくれています。もし、それらの侵入が阻止できなければ、感染症などのリスクが一気に高まりますから、IgAが減らないよう日ごろから唾液の分泌をケアすることが重要です」と強調します。
体の最前線でウイルスなどをブロック
では、実際にIgAはどのようにして細菌やウイルスを撃退しているのでしょうか。IgAは驚くべき免疫機能を持っています。免疫には「獲得免疫」と「自然免疫」の2つのタイプがあります。獲得免疫とは、体の中に侵入してきた病原体等の異物を記録し、次に同じものと出会ったときに効果的に排除する免疫システムです。予防接種で使われるワクチンはこの仕組みを使用しています。一方、自然免疫は、体の中に侵入してきた異物に対し、「怪しい!」と判断した場合、それが未知の物質であっても素早く排除してくれます。IgAの免疫成分は自然免疫的にも反応します。口内に分泌されたIgAは、侵入してきた異物が体に害を与えると判断した場合、それが未知の物質であっても、素早く排除に取り掛かります。これは、たくさんのIgAが一斉に異物を取り囲んでくっついてしまうというもので、異物は口内の粘膜から体内に侵入できなくなります。こうして、IgAによって動きが取れなくなった異物は、今度は唾液の自浄作用によってほとんどが洗い流されてしまうのです(下図参照)。まさに、人間の体の最前線で、病気のリスクをブロックしてくれているのがIgAです。また、一般に私たちの体の中で働く抗体は、特定の菌からの刺激で増加し排除する「抗原特異性」という性質があります。しかし、IgAには常に一定量が分泌され、悪い菌やウイルスを識別して排除したり、IgAについている糖が異物に対して見境なくくっつくという優れた性質を有しています。
腸内フローラとも密接な関係
腸でも活躍するIgA
IgAは腸内フローラとも深い関係があります。
私たちの腸内は、乳酸菌などの善玉菌と、ウェルシュ菌などの悪玉菌、さらに普段はどちらにも属さない日和見菌が混在し、腸内フローラ(腸内細菌叢)を形成しています。そんな腸は食べ物の消化吸収を担う器官として知られていますが、体内で最も大きな免疫器官であり、腸内フローラの中の善玉菌、悪玉菌、日和見菌のバランスが保たれることで、体内の免疫力が向上すると考えられます。
このため、そのバランスの乱れは体全体に影響を及ぼし、私たちの健康を損ないかねません。そこで活躍するのが、腸内でも分泌されるIgAです。IgAが働きかけるのは体に悪い影響を与える悪玉菌だけで、過剰に増えないよう抑制することにより、腸内フローラのバランスの調整に貢献しているのです。
唾液と腸内フローラの好循環で免疫力が向上
腸内フローラのバランスが整い、腸内環境がよくなれば、体全体の免疫力が向上するため、唾液中のIgAの分泌量も増加することになります。それにより、口内の細菌などを効果的に除去して腸内に流れ込むのを抑制し、腸内フローラのバランスを整える好循環につながるのです。このように唾液と腸内フローラは互いに関係しあって、私たちの健康を支えてくれているのです(上図参照)。
槻木先生は、「腸管の免疫力向上は他の器官の免疫力向上のアクセルになり、体全体の免疫力を高める作用があります。これは、口の粘膜も腸の粘膜も、肺や鼻や子宮などの粘膜も含めてつながっているということから『共通粘膜免疫機構』といわれます」と紹介します。そして、その中心的な役割を果たすIgAが体内各所で活躍しているのです。